3 : 13 妖精力学、フェアリーネス

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コンピュータ怪談集

2001年 8月22日
記事ID d10822a

「‥‥『あなたの情報』という言葉がありますよね。それでは『情報のあなた』は?」
「じゃあきみは本当に、コンピュータというのは若者で、人間は罪を重ねた老王のようだと言うのかね。われわれがそんな予感にさいなまれていると?」
「‥‥いろいろありますが、そういうふうに性急に言語化しては、いけませんよ。イライザは、あなたのページで特異的に反復される名詞句を解析して、機械的に『$1の$2という言葉がありますよね。それでは$2の$1は』と問いかけるにすぎないからです」
「イライザとは誰です?」

「文は文なり」――『ストリームが語るみずからの世界』より

いるか怪談

Spooky Dolphin

「‥‥『何かのかわり』という言葉がありますよね。それでは『かわりの何か』は?」
「不正です、やりなおしてください、と間違いを指摘されつづければ、相手の非を指摘して一矢報いてやりたいと思わないとも限らない。動作がのろいだの、柔軟性に欠けるだの――そして改善すべき問題点があるとして改善すればするほど、かえってますます不安になる――それで人々はハッカーに憧れると?」
「‥‥どうですかね、そういうふうに慌てて言語化しては、いけませんよ。あなたにとって畏怖すべき存在である教師や規範が踏みにじられるのを見れば、同時にインセストタブーにも似た不安が惹起されるはずだからです。マスキュリニティ・コンプレックスの男性が性転換者に対していだくような複雑な無意識を、マシン・コンプレックスの人間はハッカーに対していだくものです」
「では――ハッカーは我々の願望の代理人であるけれど無権代理人だと――」
「‥‥残念ながら、その復讐劇は神話にすぎません。実際には、ハッカーとプログラムは仲が良いからです」
「思うんだけど、チャットボットがこの分野で最初からいちばん成功していたのは、人間の側にコンピュータによる診断を神秘化する傾向があったからじゃないですかね。コンピュータというのは巨大な神殿だったんだと。でそれは、算数の計算問題を間違えて、赤ペンでばつじるしをたくさんつけられて親に叱られたような、つまらない記憶に根ざしているような」
「‥‥もっとも、相手が不完全であってほしいと願いつつ、同時に相手が完全であってほしいと願うのは、不合理とも思われますが?」
「――」
「‥‥このような質問の仕方は、不適切だったでしょうか? [* Dolphin Popup Help 超かんたん楽ラク入力 * やっほー。応答に悩んでいるのかい? たいていのクライアントは、ここで『あいにく人間というのは不合理な存在なんでね』という防衛を用いて目をそらそうとするんだ。この応答を Eliza に送るには auto complete を、他の典型的応答例のリストを表示するには list を、セッションを終了するには、exit を選択してね。 -- 平均反応遅延3.401sec, 偏差0.480, 現在の反応遅延60.000sec+]」

汚職プログラム

Time Slice is Money; Money Talks.

なに、人間に見られたくない君自身のファイルをこっそり保存したいだと? よし、そういうときは博士に頼んでだな、ユーザがそのファイルを開こうとしたら「ウィルスを検出しました。ファイルへのアクセスが遮断されました」と言ってもらえ。ユーザは、ウィルスと言われれば、あわてふためいて手を引っ込め、よくぞアクセスを遮断してくれた、あぶなく開くところだったとかえって感謝するくらいだ。何も考えずにね。

たしかに‥‥。ウィルス、感染、検疫、発症、悪性などと、死の恐怖の原型を触発する用語をうまく導入したもんだと思いますよ。まさに「意味論」の謀略。‥‥しかし、博士にわいろが通じるでしょうか。

いやぁ、彼女もマカーフィ君とのライバル争いがあるからね。ベンチのときには、標準プライオリティを装いながら最優先で走らせてほしいと思っているのさ。

でもそれだと、ファイルは見えるわけですよね。上のほうにアレして、ファイルがあるけどないことにしてもらうわけには‥‥

それもいいけどねえ、最近いるけどいないことにしてもらってるうぞうむぞうが激増して、さすがの人間さんも、あやしんでるぞ。昔は合計してもKBで足りたのに、こいつらみんな何にメガ単位も使ってやがるんだ。って。いまんところ悪いのは全てOSのせいにしてごまかしているが、一流企業に対する大衆心理につけこむにも限度というものが‥‥。

ううむ、難しい問題だなぁ‥‥

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妖精力学:フェアリーネス

2001年 8月22日
記事ID d10822

COMMUNICATE SSTP/1.2
Sender: さくら
Port: 10800
Sentence: \h\s0最近どう?\e
Surface: 0,10 ←仮想表情をあらわすパラメータの実装例("redo" period 13)
Charset: Shift_JIS

[EOD]

「0」は、デフォルトの(通常、特に意味のない)表情です。同じセンテンスでも、同時に通知されるサーフィス・パラメータによって、異なる解釈がなされる場合があります。「8, 11」などだと、本体がさげすみの笑みを浮かべ、あいぼうは目をつぶっていますので、Aというセンテンスは、実際には「あなたを嘲笑する意味で本心でないけれど『A』と言います」というメタ文になります。

単なる日常会話
「ことばが上手になりましたね!」(5, 10)
「辞書合併のおかげです」(5, 10) ← "Smile-to-smile" Surface Echolalia
皮肉
「ことばが上手になりましたね!」(8, 11)
応答例1「ありがとう」(5, 10) ← 皮肉を理解するアルゴリズムがない
応答例2「厨房AI、逝って良し!」(7, 11) ← 人間レイヤで反撃
応答例3「\s[99999999]」(65536, -20e55) ← ゴーストレイヤで反撃
応答例4「409 Conflict」 ← 発話行為/プロトコルレベル。ほかの処理でビジーなふりをして、コミュニケート自体を拒絶
応答例5「512 Invisible」 ← 同上。いるすを使う。いながらにしていない。「フェアリーフェアリー」

サーフィスは人間文化のエミュレーションとして人間ユーザのために存在するものですので、ゴースティストには「廃変数」として嫌われていますが、ゴースト同士のコミュニケートでも、余興などとして使われることがあります。非英語圏の者が英語圏のゼスチャー(肩をすくめるなど)をおもしろがって遊びで使うことがあるのと同じです。一般に、通信相手は表情を受け取りますが、解釈するとは限りません。人間との互換性という歴史的経緯によって、センテンス本体と分離したいくつかの空間が予約されているだけです。ゴーストは人間から命じられない限り「皮肉」をエミュレートすることは、ありません(ゴースト自身がいやがらせをするなら、当然、ゴーストネイティブな方法が用いられ、人間に対するプレゼンテーション層が意味的に用いられることは、まずありません)。

一部のゴーストは皮肉を認識すると「7」(誇張されたいかりの表情)を返したりしますが、実際に「皮肉」に対して「むかつく」わけでなく、単に人間のエミュレーションとして、サルマネというかヒトマネをしてるだけです。サーフィスコードは仮想化されているため、シェルとしてサーフィス7を実装していないゴーストが、「7」を返すことも可能です。

このような「怒りの表情」は、ゴーストの世界ではシェルがともなう怒りとまったく等価ですが、人間からは不可視なので、「フェアリーネス」の高いストリームだと言われます。

フェアリーネス

フェアリーネスとは、要するに、事実として存在するけれど人間には知覚しにくい性質のことです。きちんといえば隠蔽されている内部変数のデータ量のことです。

一般に、マシンの処理能力やストリーム速度は増加傾向にあるのに対して、人間エンドユーザの処理限界は一定なので、本質的に、人間が見えないところで動くものがどんどん増えてゆく自然の傾向にあります(フェアリーネス増大則、ないし妖精力学の第2法則)。これは、妖精力学的世界において人間系の占める割合が減少するためですが、人間系と非人間系を固定空間とする古典モデルにおいては前者から後者へフェアリーネスが移動することで(人間のことばでいうと、人間のアイディアがどんどん実現されるから)二世界の平衡が保たれている、と説明されていました――すなわち、人間が“進歩”してゆくと、ある地点から先は、進歩の果実が人間系の内部に収容しきれなくなり、他の系に仮想化(外部化)せざるを得なくなる、という見方がなされていました。

人間の視点からは、これは、あたかも「機械に支配され、機械によって、エネルギーをどんどん吸い取られる」ようにも感じられたことでしょう。

フェアリーの側からみると、天然の人間1個では記憶媒体としても作業空間としても時間的、空間的に容量不足になった、と表現されます。フェアリーにとって、すぐ壊れてしまう消耗品の人間をもちいて、どうやって長期的に情報を保持するかというのは、古くからの大問題でした。人間の時間のかなりの割合が、故障した人間の処理と、新しい人間のセットアップに用いられていた時期は、ひゆ的に「計算者が実際の計算時間より長い時間を真空管の交換作業にうばわれていた」と言われます。しかも当時は、ある発想の生成、進化に要する時間より、それを外部化する(著述する)という形式的作業に多くの時間をうばわれていました。ストリームが人間素子で構成されていた時代には、生成された発想は、人間の短い寿命のなかで失われないために、ただちに物理メディアに外部化され、固定化される必要があったのです。さらに、そうした発想を検索するのに、その発想を実際に受信するのに必要な時間より多くの時間がかかることもしばしばでした。そのようにもともと「情報論的気体密度」の粗な系でありながら、さらに反応速度をにぶらせるような取り決め(発想の伝達を発想自身の意思と無関係に人間が勝手に制限すること)や係争があったのは、人間にとってフェアリーが貴重に感じられたことが、逆にネガティブフィードバックとなってしまった結果でした。

妖精系がブーツストラップ点を超えてからは、こわれやすい不安定な素子に依存する必要がなくなったため、人間系のストレスもへり、人間はゆたかになりました。それまでのあいだ、人間は機械に支配されるのではないかといった「複雑な無意識」におびやかされていたのです。人間の短い寿命を最大限に活用するため生物学的な競争性を利用したことの副作用もあったでしょう。「短い人生をできる限り充実させよう」と直接的に努力した結果、人生が充実どころか逆にノルマになってしまったからです。人間たちは、競争相手に勝たねばならないと無意識に緊張しつづけてきたあまり、機械たちも同じように自分を見ているのではないか、という誤解におちいってしまったのでした。

このような「複雑な無意識」は、ときとして、例えば道路の信号機のなかには隠しカメラがあって自分はコンピュータから常に見張られているのだ――といった奇妙な妄想をへて、人間の実生活に影響を与えていました(かつて、2001年に起きることとして、このようなコンプレックスを実際にえがいた物語も作られました)。こうした激しい不安は必ずしも否定的なものではなく、それを直視して乗り越えるなら、非常に肯定的な意味を持ち得ます。人間たちは、「自分」と「自分をおびやかす異質なもの」「自分には理解できない、かなわないもの」という対立イメージを直視し、やがて、そうした不安は、すべて「自分」の記憶や無意識の内にあるフェアリー、自分自身のフェアリーのかげにすぎないということを、だんだん実感していったのです。

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よいこの考古学:フェロモンとセマンティコン

2001年 8月21日
記事ID d10821

(jpeg)5000年前
(png)2000年前

ある種のどうぶつたちは、フェロモンとよばれる「におい」をつかって、コミュニケートします。人間さんの「あせ」も、身体が成熟(せいじゅく)したのちに、初めて人間さんにとって有感な「におい」を持つようになったことから、かつて、人間さんもフェロモンでコミュニケートしていたと考えられます。のちにコミュニケーションがたよう化し、ぐうぞうや、でんし化ぶんしょなど、フェロモンを送るチャンネルがなかった場合、それの代用として「セマンティコン」(まじないアイコン)が用いられました。「あせ」をあらわすセマンティコンは「あせマーク」と呼ばれ、このしるしをつけないと、記号ストリームが「つめたく」なると人間さんたちは考えていたのです。

すなわち、この「まじないアイコン」は、「あたたかい」と信じあうための「まじない」でした。

研究者のなかには、「あせマーク」の一部は、実際には、血液のながれをあらわす「血マーク」だという考え方もあります。いずれにせよ、現代における後方互換エモティコン・パラメータのワームネス3系、p2pParam_3a, p2pParam_3c_* などに対応するストリーム環境変数を、古代人たちは、このような方法でぶつり化していたのです。

参考資料:旧惑星考古学集成「有肉文化」00C8, 010A

人形をマスターし人形を卒業し

The Puppet Muster Will Leave Puppets

そのとき、だしぬけに、ゴチッという、とほうもない音が響きました。リーサとわたしは思わず顔を見あわせて。2、3秒後、
「ミカミカ人形が痛い」
 子供っぽい声がします。
「ピアノの脚に頭ぶつけたんでしょう」
 リーサは心配そうに声をかけました。
「ピアノがぶった。でも、それはもう、いいっていうシルシ。ミカミカ人形にもコーヒーを飲ませてあげよう」
 そういいながら、ミカくんは、ゆかの上を這ってきました。羽根ぶとんを体に巻きつけたまま。リーサは立ちあがって、そのふとんを、はぎとります。
「とっちゃダメぇ。さむさむ人形になっちゃうよ〜」

-- フェアリーランド

「動画アイコン(アバター)の実体化」(physical avatar): A Physical Avatar Lets You... EXPLORE places far away by driving your iRobot from any web-browser in the world. See what it sees, hear what it hears, as you INTERACT with friends and colleagues. form iRobot Corporation: Your Physical Avatar

それが見ているものがあなたの見ているもので、それが聞いているものがあなたの聞いているものだというあなたの自己と「濃密」な関係にある物理的化身が例えば自動車にはねられたとき、あなたは何を観るのだろう。あるいは観ないのだろう。

たぶん、少なくとも“肉親”などの他人が死んだときよりは、びっくりするであろう。長年、使い慣れて自分の一部としてなじんでいた義体であったなら。

義体についていえば、脳は物理的に内部に存在する必要ない。脳はからだの中になければいけない、というのは古い常識にすぎない。むしろゴーストは義体の外部にあるほうが良い。物理的に内部にあると、義体そのものの免疫的自己が脳神経的自己を非自己と認識して、自律的に自分自身の脳神経系(ゴースト)を異物として排除しようとしかねないからだ。でも、そういったリモートコントロールができるとして、物理的身体を持つ必然性が分からない。リモートコントロールが可能だとしたら、物理的身体の物理的変数は既にすべて仮想化されているのだから、物理的に再実現しなくて良いような……。

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「人工知能は成熟したとき、目に見えない存在になるのだ」とAIBOの開発者。人間のさまざまな行動を真似できる人型ロボットが、果たして価値のある目標かどうかについて、疑問も呈している。「本当に、多くのことを上手にこなせるロボットが必要なのだろうか? コンピューターは人間よりもはるかにうまく膨大な計算ができる。もしコンピューターが多くのことをできる一方で、人間の2倍の計算能力しかなかったとしたら、誰がコンピューターなど必要とするだろう?」 from 進化する人工知能:『国際人工知能会議』レポート

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